

『告別』
告別は自粛期間明けに初めて作った作品です。
まずこの作品は先生と生徒という二つの視点が存在するということ、
そしてレモン哀歌を経て、新しい表現媒体に挑戦してみようということで
初めてゲストをお呼びしました。
私は前から勝手にファン、そして吉原さんは新型コロナウイルスの影響で延期に
なってしまった(2020年9月に上演)ミュージカルVioletで共演予定でもあった
という繋がりでお呼びした、歌手の優河さん。
この方の歌声と佇まいがなかったらこの作品は出来ませんでした。
zoom打ち合わせを経て、感染対策を十分にとろうということで、
広々とした公園で第一回目のお稽古。
レジャーシートの上で吉原さんが詩を読み、優河さんがギターを爪弾く、
贅沢な空間で私、稲葉はただの観客だった。いやちゃんと仕事はしたつもりです。
対面での稽古を何回か繰り返し、
録音した音源を元に、「告別」の世界を映像に落とし込むべくロケ撮影をしました。
場所は館山砂丘。今回調べるまで、関東にこんな素敵な砂丘があることを知りませんでした。ゴルフ場から少し入った道に車を止めるとそこに荒野が広がります。
「告別」の世界が一気に現実として出現したような景色。
ただこの日の気温は30度を超え、とにかく暑かった。
そして、優河さんはその熱い砂の上を裸足で歩かなくてはならないという
人生の修行のような撮影に嫌な顔一つせずにお付き合いくださりました。
その傍らには吉原さんが、今回完全なる撮影スタッフとして(!)優河さんをケアし、
タイムキープをし、というかもう全部仕切ってくださいました。
もう、足を向けて寝られません。
そして、今回撮影をして下さったのが私の大学時代の同級生、山崎聖史くんと足達豊くんです。山崎くんは私が学生時代に作った全ての映画の撮影をしてくれていました。
今回卒業後初めて、13年ぶりに一緒に映像を作ったということになります。
演劇が現在という一瞬一瞬の刹那だとしたら、
映像というのは、記録であり記憶です。
映像は切り取ることができ(逆に切り取らざるを得ない)
繰り返し同じものを見ることができる。(逆に同じものしか見られない)
この魅惑的な表現媒体に10年以上距離を置いていた私は、無意識に映像を撮ること
が恐ろしかったのだなあと思います。
でも、こうやって人生のラッキータイムみたいなことがあり、ひょんなことから
映像を撮ることになって改めて、映像って魅力的で、不可思議な媒体だなと思いました。
ちなみに、少し撮影の裏話的な話をすると
撮影も終盤に差し掛かり、最後のカット、優河さんが山をガシガシ登っていく
シーンで彼女に異変が起きました。
坂の途中には尋常でないダンゴムシの集団が。
轟く悲鳴と鼓舞する吉原さんの力強い声。
「私たちは虫さんのお家にお邪魔しているだけ」という妙な説得力のある吉原さん
の言葉に、ダンゴムシをなるべく避け避けものすごい速さで山の頂上へと上がられたのでした。
何かきっと幼少期の嫌な過去があったのでしょう、本当に過酷な撮影にお付き合いくださりありがとうございました。