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​『刺青』

以前からずっとオーディオドラマが作りたかった私。

自粛期間に入ってまず挑戦してみたいと思ったのがこの企画でした。

眠れぬ夜の処方箋というタイトルは、

”秘密のダイヤルを回して聴く大人の童話”とでも言いますか

お布団に入って内緒で聴く物語、というイメージからそう命名しました。

今は色々な媒体が増え想像の先を行くようなコンテンツがたくさん増えましたが

耳だけで聴いて物語を想像する、感じるというのは

とても贅沢な時間なのではないか、と思います。

明治、大正、昭和の文豪たちの言葉は

耳で聞いただけで手触りや匂い、色彩が存在します。

​この日本語の嫋々たる出で立ちを作品に落とし込んでみようと思ったのです。

題材は谷崎潤一郎の『刺青』。

やるなら一つ目から高い頂を目指そうと、耽美派の代表格、

谷崎潤一郎先生に手を出してみました。

というのも元々、私の劇団の先輩亀田佳明さんが谷崎潤一郎を読んだら

絶対にすてきに決まっている、という確信があり

私がそれを聴きたいという一心でこの企画をスタートしたと言っても

過言ではありませんでした。

​亀田さんには耽美派が似合うのです。

ということで、1週間みっちりと稽古をして、言葉を掘り下げていきました。

亀田先輩は私の拙いリクエストに応えながらも、

アイデアを色々と出して下さいます。

時に雑談をしながら、稽古をし、時に雑談に雑談を重ねながら、

もはや一日雑談で終わった日もあったりしながら、和やかに稽古が進みました。

そして、三日間にわたる録音作業。

場所はシアター風姿花伝。急な依頼を快く受けてくださいました。。。

ひさしぶりの劇場に、演劇公演ではないけれど胸躍る瞬間でした。

そして、今回サウンドデザインを引き受けてくださったのが

音楽家の阿部海太郎さんです。

海太郎さんの音楽との出会いは遡ること10年以上前。

私、稲葉が大学生の時に東京都現代美術館のミュージアムショップで

かかっていたCDに

一目惚れ、もとい一聴き惚れしたのが初めでした。

その後お仕事をご一緒できることになるなんて、大学生の私が聞いたら

嬉し泣きするんじゃないか、と思うくらいファンでした。

谷崎の『刺青』には海太郎さんの音楽しかないと、

恐れ多くもこのプロジェクトに参加してくれないかとお誘いしたところ

快諾してくださったのです。

海太郎さんとの作業はとても胸躍るものでした。

朗読に合わせてその場所や空気を喚起させる生活音を重ねていきます。

時に実際に音を録音しに行ったり、音を作ったり、音の収集家のような作業は

職人のように細やかで厳かでした。